― モザイクと空間芸術、そして魂の旅 ― 1 

モザイクを巡る旅

モザイクの巡礼

― ラヴェンナからバルセロナへ、空間と意識の旅 ―

⒈ この旅の目的 

2026年早春、
イタリア・ラヴェンナとスペイン・バルセロナを訪れた。 

目的は
モザイク芸術の源流を辿ること。 

しかし旅は、
思いがけない方向へ進んでいった。 

それは
芸術と意識の関係をめぐる旅だった。

⒉ パードヴァ | スクロヴェーニ礼拝堂

スクロヴェーニ礼拝堂

イタリアに着いた翌日は、
ちょうど ヴェネツィア・カーニバルの最終日でした。

せっかくの巡り合わせなので、
旅の始まりにヴェネツィアへ。

祝祭の余韻が漂う街を、
少しだけ歩きました。

その帰り道、
パードヴァに立ち寄り、
30年ぶりにスクロヴェーニ礼拝堂を訪れました。

ジョットによるフレスコ画で知られるこの礼拝堂は、

「ここから西洋絵画は近代へ向かって動き始めた」

とも言われる場所です。

天井に広がる深い青と、
静かな物語の連なり。

あの空間に身を置くことは、
ラヴェンナのモザイクへ向かう旅の
静かな序章のようでもありました。

ジョットの壁画

 3. ラヴェンナという場所 

サン・ヴィターレ聖堂

時間が折り重なる都市 

ラヴェンナは
モザイクの都として知られている。 

5~6世紀
ビザンティン帝国の時代に
この街には
壮麗なモザイクが作られた。 

サン・ヴィターレ聖堂 
ガッラ・プラチーディア霊廟
ネオニアーノ洗礼堂 

これらの建築は
単なる装飾空間ではない。 

精神のための空間である。 

モザイクは
壁を飾るためのものではなく

光を使って
意識を変容させる装置だった。

この街には
さらに多くのモザイク聖堂が残されている。

私は今回の滞在で、

サンタ・アンドレア礼拝堂
サンタポリナーレ・ヌオーヴォ聖堂
サンタポリナーレ・イン・クラッセ聖堂

も巡った。

それぞれの空間には
異なる光があり、
異なる時間が流れている。


ラヴェンナは
過去の遺跡ではない。

この街では
1500年前の光が
いまも生きている。

ガッラ・プラチーディア霊廟

4. 雨のサン・ヴィターレ


ラヴェンナ滞在中のある日、
サン・ヴィターレ聖堂を訪れました。

何度も通っている場所ですが、
この日は、少し特別な朝でした。

この度で唯一、
雨に遭遇した日です。

歩いて15分ほど。
朝は雲がかかっていましたが、
出かける頃、空が明るくなっていたので、
傘を置いて出ました。 


ガッラ・プラチーディア霊廟を見学し、
サン・ヴィターレに戻り、
ゆっくりとモザイク鑑賞しながら撮影を続けました。 

ほぼ見終えたころ、
突然、外で雨が降り始めました。

雨はすぐ激しくなり、
聖堂を出れば、すぐびしょ濡れになる勢いです。


聖堂の内部は
モザイクに満たされています。 

時間が止まったような
静かな空間。

まだ観光客の数も少なく、
静寂に包まれていました。

厚着をしていたので、
寒さはあまり感じずにすみました。 

聖堂の隅々を歩き、
止まぬ雨を眺めながら、
ときどき祈りの椅子に身を委ねているうちに、

しだいに
不思議な感覚を覚え始めました。


「この場所に私は何度も来た」


30年前、
留学したばかりの頃の自分と
重なってくるのです。 

言葉にすると難しいですが、
魂がひとつの場所に集まってくるような
そんな感覚でした。

のちに振り返ると、
あれは

統合の儀式

のような時間だったのかもしれません。

床の迷路

サン・ヴィターレの祭壇の前には、
床に円形の迷路が刻まれています。

中世の人々は、
この道を歩くことで
エルサレムへの巡礼を象徴したと言われています。

一本道なのに、
何度も遠回りする。

 人生の道のようです。

けれど
中心には、必ず辿り着く。


迷路は、
内面へ向かう旅を表すとも言われています。 

モザイクとは何か

モザイクは
ただの装飾ではありません。 

小さな石の配置。
光の反射。
空間の構造。 

それらすべてが
静かに人の意識に働きかけます。

芸術は、
精神を変容させる装置 。

私は長いあいだ、
モザイクという芸術を通して

芸術と魂の関係

を模索してきました。 

けれどもこの旅の中で、
もう一つの要素の存在に
気づき始めています。

それは
空間です。

モザイクの幾何学。
光の反射。
建築の構造。


それらすべて、
空間の中で作用しながら、
静かに人の意識に働きかけます。

もしそうだとすれば、

芸術と魂を結びつけているのは
空間という場の力
なのかもしれません。

そしてそれは、

私が30年かけて探してきた
モザイクという芸術の本質に
静かにつながっていく気がしています。


もしかすると、
モザイクとは

人が自分の中心へ変えるための
空間の地図なのかもしれません。


⒌ マイクロモザイク実習

ラヴェンナ滞在中、
もう一つの目的がありました。

モザイクの実技体験として、
ミクロモザイコ(micromosaico)の実習に参加しました。

今回はさらに細かな
モザイコ・フィラート(mosaico filato)という
ガラスを細い糸のように引き伸ばして作る
極小テッセラの技法を学びました。

テッセラは、ピンセットで一粒ずつ置いていきます。

二回目の研修となる今回は、
朝から晩まで丸一日、
静かな集中の時間が続きました。

サン・ヴィターレの壮大なモザイクも、
こうした小さなテッセラの積み重ねから
生まれているのだと実感しました。

このような極小テッセラの技法は、
18~19世紀のローマで発展した
モザイコ・ミヌート・ロマーノにもつながる
伝統的な技術です。

モザイコ・フィラート


 ⒍ カーサ・マータの文化講義 

旅の最初の週末、
ラヴェンナである講義を受けました。 

会場となったのは
Casa Matha(カーサ・マータ)。

実はここ、
ラヴェンナの中でも
とても特別な場所です。

壁は美しいフレスコで飾られた、
歴史ある建物です。

ここは、ヨーロッパでも古い
漁業組合が生まれた場所で、
イギリスよりも早い時代に
組織が作られたのだそうです。

中世のラヴェンナでは、
漁師たちの組合がここに集まり、
町の自治や経済を支えていました。

現在もCasa Mathaでは、
文化的な講義が
定期的に行われているそうです。

講義が始まる前、
進行を見守っていた町の年配の方が、
カーサ・マータの歴史を
私に丁寧に語ってくれました。

そのあと、
ひとりの紳士が静かに近づいてきて、
一冊の本を手渡してくれました。

それは、
カーサ・マータの歴史をまとめた本でした。

ラヴェンナの歴史に触れる、
思いがけない贈り物。
なんと、その紳士は本の著者でした。


その静かな空間で、
ある不思議な講義が行われました。

カーサ・マータ

 ⒎ 芸術とエクスタシス について


講義では、次の書籍が紹介されました。

「アポロン、イアトロマンティス、シビュラ、
そしてエクスタシスの技法」

著:マルコ・マクロッティ
解説:ジョヴァンニ・フレーザ

古代の神託とエクスタシスの技法についての研究書です。

古代ギリシャでは
神託や預言は
特定の意識状態の中で行われました。 

それは

神聖な狂気
トランス
魂の浄化

などと呼ばれています。 

講義は非常に難解でしたが、
私はふと考えました。

人は古代から、
意識を変容させる方法
真剣に探してきたのではないか、と。

そのとき、
ラヴェンナで体験した
あの静かなモザイク空間を思い出しました。

サン・ヴィターレの聖堂で感じた、
時間が止まっているような感覚。

もしかすると、

ラヴェンナのモザイク空間もまた、
人の意識に静かに働きかける
装置のようなものとして
作られていたのではないか。

そんなことを、
ぼんやりと考えていました。

その夜は、
本の著者を囲んで
ささやかな会食が開かれました。


講義の後、
いったん皆それぞれ家に戻り、
少し休んでから再び集まります。

会食が始まったのは、
夜9時を過ぎてからでした。

イアリアらしい時の流れに身を委ね、
週末の文化の時間を楽しみました。

会場は、Passatelli。

ラヴェンナの古い映画館を改装した
大きなレストランです。
ロマーニャ地方の料理を出すお店でした。


高い天井の広い空間に、
町の人々が集まっていました。
私は、
Passatelli in brodoを注文しました。

テーブルを囲みながら、
この町の歴史や建物の話を聞き、
ゆっくりとした時間を楽しみました。

講義が行われた
歴史あるCasa Mathaと、
映画館を改装したレストラン。

古い建物の中で、人々は食事をし、語り合い、
この町の文化は今も静かに続いているのだと感じました。

ラヴェンナは、もはや私にとって第二の故郷。
そこには静けさがあり、時間さえもゆっくり流れていました。

しかし、20年ぶりに戻るバルセロナは、
街の光と色に満ち、旅そのものの鼓動が私の胸を打ちました。

安定と静寂の後に訪れる高揚。
この対比が、次の空間芸術のページへと私を誘います。

床に刻まれた迷路の図案 | サン・ヴィターレ聖堂

参考資料

サン・ヴィターレ聖堂のラビリンスについて
RavennaMosaici
https://www.ravennamosaici.it/en/labyrinth-san-vitale/
Marco Maculotti
Apollo, gli Iatromanti, le Sibille e le tecniche dell’estasi
(『アポロン、イアトロマンティス、シビュラ、そしてエクスタシスの技法』)
出版元ページ
https://axismundi.blog/2026/02/19/evento-apollo-gli-iatromanti-le-sibille-e-le-tecniche-dellestasi-ravenna/
Casa Matha(ラヴェンナ)
https://casamatha.it/

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