― モザイクと空間芸術、そして魂の旅 ― 5

モザイクを巡る旅


空間は、人の意識を変える

ラヴェンナからバルセロナへ。

この旅は、
モザイクを巡る巡礼であると同時に、
空間と意識の関係を見つめる旅でもありました。

⒈ ラヴェンナで受け取ったもの

イタリアの古都
ラヴェンナ。


そこに残るビザンティンのモザイクは、
ただ美しいだけではありませんでした。

ラヴェンナのモザイクは、
黄金というよりも、
金や色彩の光です。

金や色彩の光に包まれた空間の中に立つと、
時間の流れが静かにほどけていきます。

その光を胸に、もう一度旅を振り返ります。


たとえば
サン・ヴィターレ聖堂。

モザイクは
壁を飾る装飾ではなく、
空間を飾るためのものではありませんでした。


それは、
人の意識を別の次元へと運ぶ装置でした。


そこでは、
光、色、形、沈黙がひとつになり、
人の心を静かに整えていきます。

サン・ヴィターレ聖堂 
静かな光の中で、空間が息づく

⒉ バルセロナという芸術の実験都市

その後に訪れた
バルセロナ。

ここではまったく異なる
空間芸術が生まれていました。

19世紀末から20世紀初頭、
この都市では建築家たちが
大胆な創造の実験を続けていました。

  • アントニ・ガウディ
  • リュイス・ドメネク・イ・モンタネール
  • ジュゼップ・マリア・ジュジョール


彼らは、建築を単なる建物ではなく、
生命のある空間として考えました。

バルセロナの街は、
碁盤の目のような都市の骨格の上に、
自由な建築が息づいています。

ガウディは、
自然の世界には直線がないと考えていました。

曲線、光、色彩、装飾。
すべてが混ざり合い、
バルセロナの街そのものが、
巨大な芸術作品のように
うねっています。

カサ・ミラの屋上。
曲線の塔が連なり、バルセロナの街全体を抱くように広がる。


ラヴェンナが
「神の空間」だとすれば、

バルセロナは
人間の創造が広がる都市空間
なのかもしれません。

バルセロナでは、
建築は単なる建物というより、

建物は街の広場や通りと呼応し、
公園や丘の風景へと
つながっていきます。

グラシア通り。
光を受けて輝くカサ・バトリョの曲線、
モザイクに刻まれたカサ・リェオ・モレラの壁面。
街そのものがひとつの芸術作品のようです。

⒊ 美が人を癒す建築

バルセロナを歩くと、
ひとつの建物の内部だけでなく、

街全体が、
人間の生命力を語りかけている、

そんな感覚が
静かに浮かびます。

それは、
美しい空間には
人を癒す力がある
ということです。

光がやわらかく建物の陰影を生み出し、
建物の内も外も、
光に反射した色彩や
建物に突起した装飾らが静かに呼吸し、
自分の内側へ戻っていきます。

美しい空間は、
人の心を整える装置でもあるのです。

カサ・アマトリェールの屋根ディテール。
直線的なリズムが
隣接するカサ・バトリョの曲線と重なり合います。
グラシア通りに面した入口には、大理石のモザイク床と
壁面のタイル装飾のコントラストが美しく、

スペインの大地に包まれるような感覚が広がりました。

⒋ サグラダ・ファミリアという謎

光と空間の力に迎えられ、
私の感覚は少し揺れました。

バルセロナ滞在最終日の朝は、
グラシア通り沿いの建築を歩きました。
カサ・バトリョ、
カサ・アマトリェール、
カサ・リェオ・イ・モレラ、

壁面に刻まれた曲線やモザイクを眺め、
街の空間を全身で感じます。

最後にカサ・ミラを見上げながら歩き、
バルセロナの街のリズムと生命力を体感しました。

ラヴェンナとバルセロナ、
旅の目的を静かに内省しながら、
そして
サグラダ・ファミリアへと向かいました。

サグラダ・ファミリアは、
20年前に初めて訪れたときから、
私にとって少し特別な体験でした。

壮大な建築でありながら、
なぜか最初は
自分を拒まれているような
不思議な感覚が残ったのです。

100年の時空を彷徨う違和感。

内部の
空へと伸びる高い空間は、
どこか自分を遠ざけるような
距離を感じさせます。

ステンドグラスの光が
陽の光を砕き、
色となって空間に注ぐとき、


内部の空間は、
時間の流れとともに
ゆっくりと色に染まっていくのです。

サグラダは、
好きか嫌いかというより
むしろ強く記憶に残る場所。

サグラダ・ファミリアは、
今も完成を目指して
成長し続けている
生きた建築なのかもしれません。

⒌ モザイクという世界

モザイクは、
小さな断片の集合です。

石、ガラス、金のテッセラ。
一つひとつは小さくでも、
それらが集まることで
ひとつの世界が生まれます。

ラヴェンナのモザイクも、
バルセロナの空間芸術も、
本質はどこかでつながっています。

小さなテッセラが世界を描く
ラヴェンナのモザイク。

そして、
割られた陶片やタイルを組み合わせて
空間を彩るバルセロナのモザイク。

それは、
断片から世界をつくる芸術
なのです。

人の人生もまた、
小さな出来事や経験の積み重ねによって
形づくられていくものなのかもしれません。

光を受けて輝くグエル公園のトカゲ。
小さなタイルの一つ一つが集まり、
モザイクの楽しさと色彩の世界を語っています。
日本でも、モザイクの象徴として広く知られています。


ラヴェンナからバルセロナへ。

それは、
モザイクと空間芸術を巡る旅であり、
同時に、
自分の意識をめぐる旅でもありました。

そして今も、
モザイクという芸術は
静かに問いかけ続けています。

空間は、人の魂に何をもたらすのか。

小さなテッセラが集まって、
ひとつの世界が生まれるように、

人の人生もまた、
無数の断片から形づくられていきます。

モザイクとは、
断片から世界をつくる芸術なのです。

サンタポリナーレ・ヌオーヴォの三人のマギ。
光を受けて輝く小さなテッセラが描く、静かで確かな世界。
ラヴェンナに立ち返ると、モザイクとは、まさに断片から世界をつくる芸術なのだと感じます。
バルセロナの華やかな空間芸術を経た旅の終着点として、最もふさわしい光景です。


シリーズ案内

モザイクと空間芸術、そして魂の旅

ラヴェンナからバルセロナへ。
モザイクと空間芸術をめぐる旅の記録です。

第1回
モザイクの巡礼
― ラヴェンナからバルセロナへ、空間と意識の旅 ―
https://mosaico.jp/mosaic-world/trips/it20/

第2回
バルセロナ 空間芸術の爆発
午後の光、バルセロナに舞い降りて
https://mosaico.jp/mosaic-world/trips/it21/

第3回
バルセロナ 空間芸術の癒し
美が人を癒す建築
https://mosaico.jp/mosaic-world/trips/it22/

第4回
サグラダ・ファミリア 砕かれた光
私を拒絶した場所・サグラダ
https://mosaico.jp/mosaic-world/trips/it23/

第5回
空間は、人の意識を変える
https://mosaico.jp/mosaic-world/trips/it24/


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