バルセロナ 空間芸術の爆発
⒈ 午後の光、バルセロナに舞い降りて
ラヴェンナの
静かなモザイクの街を離れ、
私はバルセロナへ向かいました。
地中海をはさんで向かい合うこの二つの街。
しかしそこから生まれた芸術は、
驚くほど対照的です
ラヴェンナが
静かな内面の宇宙だとすれば、
バルセロナは
生命が外へと噴き出す都市です。
空港に着くと、
2月だというのに、
むっというような熱気を感じました。
ゲートを出ですぐに、ツーリストインフォメーションを見つけ、
ホテルまでの道案内と地下鉄フリー切符を購入しました。
最初は英語で話ていましたが、
私がイタリア語が話せるとわかると、
スタッフの表情がぱっと明るくなり、
そのまま快活なイタリア語で説明してくれました。
新しく整備された無人地下鉄L9線で
終点Zona Universitàriaまで。
そこからL3ラインでLes Cortsへ。
空港からおよそ一時間、
ホテルは静かな地区にあり、
とても便利な場所でした。
荷物を預けると、
いよいよ心躍るグエル公園へ向かいます。
*
ホテルのスタッフの女性から、
「Diagonalで降りてバスに乗ると
丘の上側に着くから歩かなくて済むわよ」
と教えてもらっていました。
しかしバス乗り場が見つからず、
結局もう一度地下鉄に戻り、
グエル公園最寄り駅、
Lessepsで下車しました。
20年前もこの駅で降りて、
丘の上の公園に向かった記憶が懐かしい。

しかし、
今回は、
エレベーターの姿は見当たりません。
目の前には、
急な坂道と長い階段だけ。
私の前には、駅のエレベーターで一緒だった
東欧系の美しい女性が歩いていました。
ほとんど人のいない坂道で、
お互いちらっと顔を見合わせ、
思った以上に暑いバルセロナの空気に
厚い上着を脱ぎながら、
長い階段を登っていきました。
Lessepsからの坂道を選びました。
丘の上に広がる未知の空間まで、
二十年前も、同じ道を
胸を高鳴らせながら登ったことを思い出します。
当時は途中に小さなバールがあり、
そこにあったモザイクを見て、心が熱くなったものでした。
あの時はエスカレーターで登れました。
今回は、まだシーズン前の舗装でしょうか。
左手は工事中、簡素な住宅街が続きます。
坂道の途中にはベンチもあり、
門柱はムンデル様式で、
バルセロナに来たことを実感させてくれます。
公園入口近くになると、
坂道はごつごつとした岩場の風景に変わりかけていました。
作業中の工事の人たちが腰を下ろして休んでいます。
昼過ぎの光を浴びてゆったりと。
日本とは違う街のゆとりを感じながら、
私は公園の入り口を目指しました。

⒉ 椰子が投影する柱 ー グエル公園
やがて、
グエル公園の入り口へ。
トランカディスで飾られた
あの波打つベンチを見たい衝動を抑え、
今回はまず
色のないガウディ思想と向き合いたい。
Lesseps入り口から入った
昼下がりの公園を静かに歩きました。
各国の親子連れが
ベンチでお昼休憩をしています。
Tシャツの若者もいて、
2月とは思えない陽気。
その暖かな空気に感謝しながら、
私は公園の奥へと歩いていきました。
大きな石を積み上げた柱は、
ごつごつと突起があり、
まるで自然の造形物のようです。
しかしそこには
確かな構造がある。

トランカディスのベンチに近づくにつれて、
その柱の風景が
群生する椰子の木なぞった形状であることに
気がつきました。
Plaça de la Natura
(中央広場)へ急ぎたい気持ちを抑え、
まずはベンチの裏側から、
ドーリス式列柱が支える市場へ降りていきます。
以前はあまり目がいかなかった場所ですが、
今はじっくりと、
その造形の秩序と空間の広がりを感じます。
頭上のモザイク装飾は
比較的新しいものもありました。
私はそれら断片より、
柱の底部に貼られた
白いトランカディスの反射に美しさを感じ、
心に映し込みました。
市場の柱は、
自然を模した曲線と、力強い構築が同居するフォルム。
光が交差するその空間を歩きながら、
柱とモザイクが一体となった
巨大な芸術空間を体感します。

光を受けて反射し、空間にリズムを生む

*
そこから
有名なトカゲ噴水へ。
まだハイシーズンではないので、
観光客の合間に
トカゲの写真も撮ることができました。
トカゲから「お菓子の家」と呼ばれる建物のある
正面入り口向かいます。
階段の両脇を飾る
トランカディスの装飾は、
やはり素晴らしい。
以前も撮影しましたが、
今回もじっくり観察しました。
そして新たに気がついたのです。
トランカディスの装飾の中にも、
岩がだらりと垂れ下がるような
自然の形が織り込まれていることを。
公園の隅々まで、
ガウディの自然思想が息づいています。

白いタイルと色のタイルが格子文様にいくつも配置され、トランカディスのリズムで空間に躍動感を生み出している。
岩が垂れ下がる自然の形も織り込まれ、背景にはお菓子の家が映り込む。
階段全体に、力強く生き生きとした動きを与えている。
⒊ ベンチのトランカディス
日光が夕方の光に変わる頃、
私はようやく
グエル公園のハイライトとも言える
中央市場へ戻りました。
ほとんどの観光客は、
港を見下ろすサグラダ・ファミリア方向の崖の上や、
ベンチに腰を下ろし、
思い思いのポーズで写真を撮り合っています。
私はその隙を狙って、
ガウディの思想を受け継ぎ、
グエル公園のトランカディス装飾に多大な創造的貢献をした建築家、
ジョセップ・マリア・ジュジョールらの手によるベンチをカメラに収めました。
全ての曲線に表情があり、何枚撮っても驚きの連続です。


ジュジョールの手によるトランカディス装飾が光を受けて輝く。
⒋ ここに息づく芸術の精神
石と光が交差し、モザイクも。
バルセロナの午後の、強く優しい光に反射して、
心に響き渡る影を落としています。
自然を模倣したとされるガウディの柱。
でこぼことした突起、
しかし柱としての構築があるそのフォルムに、
以前は感じなかった空間の美意識を感じています。
すべてが一体となり
巨大な芸術空間を作っている。
その中を歩きながら、
私はふと気づきました。
ラヴェンナで感じた
あの静かな精神は、
形を変えて、ここにバルセロナにも流れているのだと。
そしてその精神は、
街の中の別の場所でも、
さらに豊かな形で息づいていました。
次に訪れる空間でも、
その流れを感じることができるだろうと思いました。
バルセロナ再訪の二十年という時間が、
心の中に、
さらに大きな空間を描いていたのでした。
*
去り難いグエル公園の午後。
今度は、来たときの入り口とは逆の、
お菓子の家がある正面の入り口から
バルセロナの街へ向かいました。
振り返ると、
グエル公園の文字を刻んだモザイクが
城壁のように、公園全体を囲っていました。
こうした風景ひとつひとつの手仕事が、
深く、私の心に刻まれました。
参考・引用
ジョセップ・マリア・ジュジョール(Josep Maria Jujol)– Wikipedia(ガウディ作品に携わった建築家)
https://en.wikipedia.org/wiki/Josep_Maria_Jujol
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